2025年の自民党総裁選は、5人の候補者による混戦模様となり、連日活発な政策論争が繰り広げられています。次期総理大臣の座をかけた戦いは、テレビ討論会だけでなく、ネット配信も活用した多様な形で国民に届けられました。
本記事では、各討論会で語られた全候補者の政策主張を公平な視点で整理し、5つの主要テーマについて徹底的に比較・解説します。この記事を読めば、自民党総裁選の全体像と各候補者の考えが明確にわかるはずです。
開催された主要な討論会一覧
今回の総裁選では、選挙期間中に各メディアや団体が主催する討論会が連日開催され、政策論争が繰り広げられました。特に従来のテレビ討論に加え、若年層にも主張を届けるためのネット討論会が活発に行われたのが特徴です。
【地上波・従来型メディア主催】
- NHK「日曜討論」
- 開催日時: 2025年9月14日(日)
- 日本記者クラブ主催 公開討論会
- 開催日時: 2025年9月19日(金)
【ネット配信主催】
- 自民党青年局・女性局主催 公開討論会
- 開催日時: 2025年9月16日(火)
- YouTube生配信討論会
- 開催日時: 2025年9月28日(日)
主要テーマ①:新たな成長戦略と物価高対策
国民生活を圧迫する物価高への対応と、日本経済を再び成長軌道に乗せるビジョンが最大の争点です。持続的な賃上げをどう実現するかが問われています。
- 高市 早苗 氏: 積極財政による経済成長を一貫して主張。デフレからの完全脱却を最優先課題とし、大胆な金融緩和と政府支出の拡大を訴える。
- 茂木 敏充 氏: 現実的な成長戦略を掲げ、特に中小企業の賃上げ支援を重視。自身の経済産業大臣としての経験を基に、サプライチェーン強化やデジタル化への投資を訴える。
- 小林 鷹之 氏: 科学技術への大胆な投資を成長のエンジンと位置づけ、将来の基幹産業を創出する必要性を強調。一部の減税策にも言及し、企業の投資意欲を刺激したい考え。
- 林 芳正 氏: 「人への投資」を経済政策の中心に据える。教育やリスキリング(学び直し)への重点的な公的支援を通じて国民一人ひとりの生産性を高めることが、持続的な成長の鍵だと主張。
- 小泉 進次郎 氏: 社会保障制度の改革と経済成長を一体で進めるべきだと訴える。将来世代の負担を軽減し、持続可能な社会保障を構築することが、国民の将来不安を払拭し、消費マインドの改善に繋がるとの考え。
主要テーマ②:外交・経済安全保障の再構築
不安定な国際情勢を踏まえ、日本の外交スタンスと安全保障政策の再構築が急務となっています。特に「経済安全保障」が重要なキーワードです。
- 高市 早苗 氏: 経済安全保障の強化を自身の看板政策として掲げる。重要技術や資源を守るための法整備や体制強化を訴え、より自律的な経済構造を目指す。
- 小林 鷹之 氏: 初代経済安全保障担当大臣としての実績をアピール。半導体などの重要物資のサプライチェーン強靭化や、技術流出防止策の具体化を主張。
- 茂木 敏充 氏: 外務大臣や党幹事長としての豊富な経験を強調。日米同盟を基軸としつつ、多国間の枠組みを重層的に活用する、バランスの取れた外交を訴える。
- 林 芳正 氏: 官房長官として培った調整能力をアピール。各国との丁寧な対話を重視し、予測不可能な事態にも対応できる安定した政権運営を訴える。
- 小泉 進次郎 氏: 気候変動問題などの地球規模課題で日本がリーダーシップを発揮する「環境外交」を推進。国際社会での日本のプレゼンスを高めるべきだと主張。
主要テーマ③:エネルギー政策の転換
カーボンニュートラル実現に向け、原子力発電所の再稼働や次世代革新炉の開発について、各候補者のスタンスが分かれています。
- 高市 早苗 氏: 原子力エネルギーの活用に最も積極的。安全基準を満たした原発の早期再稼働と、次世代革新炉の開発・建設を強力に推進すべきとの立場。
- 小林 鷹之 氏: 安定供給を最優先し、再生可能エネルギーと原子力の両方を活用する現実的なエネルギーミックスを主張。
- 茂木 敏充 氏・林 芳正 氏: 両者ともにエネルギーの安定供給の重要性を強調。特定のエネルギー源に偏ることなく、多様な選択肢を確保する現実路線を訴える。
- 小泉 進次郎 氏: 再生可能エネルギーの主力電源化を加速させるべきだと主張。原発への依存度は長期的に低減させていく目標を明確にすべきだとの考え。
主要テーマ④:「政治とカネ」の問題と党改革
政治不信の根源となっている「政治とカネ」の問題にどうけじめをつけ、党の信頼を回復するかが問われています。
- 小泉 進次郎 氏: 派閥政治からの脱却や、党運営の透明化を最も強く訴える。政治資金収支報告書の完全オンライン化・公開など、抜本的な改革案を提示。
- 茂木 敏充 氏: 党幹事長として党改革に取り組んできた実績を強調。コンプライアンスの徹底やガバアンス強化を継続し、国民の信頼を着実に回復していくと述べる。
- 他の候補者(高市氏、林氏、小林氏): 全員が政治資金規正法の改正や党運営の透明化の必要性を認めており、国民の信頼回復を最優先課題として取り組む姿勢では一致している。
主要テーマ⑤:憲法改正の具体的な進め方
憲法改正について「どの条文から、どうやって進めるのか」という具体的な実行計画が問われています。
- 高市 早苗 氏: 大規模災害や有事を想定した「緊急事態条項」の創設に最も意欲的。国民の生命を守るために不可欠だとし、議論を加速すべきだと主張。
- 小泉 進次郎 氏: 国民的な議論を喚起することを重視。多くの国民が関心を持ちやすいテーマから議論を始めるなど、改憲へのハードルを下げる工夫が必要だとの考え。
- 茂木 氏・林 氏・小林 氏: 自衛隊の明記を含む党の改正案を基本としつつ、国民的な理解と幅広い合意形成を得ながら、丁寧に進めていくべきだという現実的なアプローチを主張。
まとめ:混戦を極める総裁選
今回の自民党総裁選は、公式候補者5名による政策討論会を通じて、各々の国家観や政策の方向性が浮き彫りとなりました。
経済政策では、積極財政を訴える高市氏と、人への投資を重視する林氏、社会保障改革と一体で考える小泉氏など、アプローチの違いが鮮明になりました。外交・安全保障では、経済安保の専門家である高市氏と小林氏が新たな視点を提示し、経験豊富な茂木氏と林氏が安定感をアピールする構図です。
エネルギー政策や憲法改正の進め方についても各候補者の立ち位置の違いが明確になり、有権者にとっては政策を比較検討する上で非常に中身の濃い討論会となりました。
今後の政治スケジュール(公式発表)
自民党の公式サイトによると、総裁選は以下の日程で進められます。
- 国民の声に応える政策討論会: 2025年9月30日(火)
- 党員投票締切: 2025年10月3日(金)
- 投開票日(議員投票・開票): 2025年10月4日(土)
投開票日に国会議員による投票が行われ、事前に郵送された党員・党友票と合わせて開票されます。1回目の投票で過半数を獲得する候補者がいない場合は、上位2名による決選投票が即日実施され、新たな総裁が選出されます。
最新の情勢分析(9月28日時点)
最終盤を迎えた総裁選は、依然として誰が勝利してもおかしくない大混戦が続いています。9月28日の討論会が、候補者が直接有権者にアピールできる最後の大きな機会となりました。
各社の情勢調査を総合すると、高市氏が党内保守層と一部の国会議員票を固め一歩リードしているものの、党員・党友票では小泉氏が猛追しており、予断を許さない状況です。
ベテランの茂木氏と林氏は、それぞれ党内の中間層や派閥の支持を固め、決選投票に残ることを視野に票の掘り起こしを続けています。ダークホースの小林氏も、独自の政策で支持を広げており、台風の目となる可能性があります。
現時点では、1回目の投票で過半数を獲得する候補者は現れず、決選投票にもつれ込むのは確実と見られています。その場合、高市氏と小泉氏のどちらが決選に進むか、そして敗れた候補の票がどう動くかが、新総裁決定の鍵を握ることになりそうです。
